「生酛造り」「山廃」とは
「生酛造り」とは何か、わかりやすく言うと、「自然の力を活用した、昔ながらの日本酒の造り方」です。今回は、その「生酛造り」について説明します。
日本酒の製造工程には「一麹二酛三造り」という言葉があります。蒸米から米麹を作る「麹造り」、米麹に酵母を繁殖させる「酒母(酛)造り」、酒母をベースにして量を増やしながら醪(もろみ)を段階的に仕込んでいく「醪造り」を順番に表現したものです。「生酛造り」はこの中の「酒母造り」の中の話になります。
酒母造りとは、蒸した米と水に麹、酵母、乳酸菌を加えたもので、酵母を培養することによって日本酒の発酵の元になる酒母を造る工程です。
現在では、人工的に作った乳酸菌があるため、それを使うことが一般的になっています。乳酸菌を培養するのにはとても時間がかかるからです。ちなみに人工的に作った乳酸菌を使用した酒母を「速醸酛」といいます。1910年(明治43年)に新しくできた造り方です。
しかし、昔(江戸時代)は人工的に作った乳酸菌はありませんでした。むしろ乳酸菌の存在すら知らなかったはずです。経験の中から雑菌が繁殖しない方法を生み出して、知らずのうちに乳酸菌を活用していたのでしょう。
現代では、あえて昔ながらの方法で自然に乳酸菌を取り入れる方法をとる場合があります。空気中や蔵の壁、天井など自然に自生する乳酸菌を繁殖させて酒造りに使う方法です。具体的には「山卸し」という、舟を漕ぐときに使う櫂(かい)のような道具で、桶の中の蒸し米と麹を2人1組になってすり潰す作業を行い、その際に乳酸菌を取り込みます。このようにしてできた人工的な乳酸菌を添加していない酒母を「生酛」といいます。
つまり「生酛造り」とは、江戸時代に行われていた山卸しを行うことにより乳酸菌を取り入れて酒母を造る方法です。
生酛造りと似た製造方法に、「山廃仕込み」があります。
先ほど書いた「山卸し」という作業は、深夜から早朝にかけて、極寒の中で行う必要があり、大変な重労働です。技術革新が進み、米をわざわざ擂り潰さなくても、材料の投入順序を変えることで、山卸しの作業を省いても、変わらない「生酛」の味わいを造り出すことができるようになりました。
「山卸し」を「廃止」したので「山廃」と呼ばれています。正式名称は「山卸廃止酛仕込み」です。